下肢静脈瘤
1.下肢静脈瘤とは
下肢静脈瘤とは血液の逆流を防ぐ静脈の弁が正しく閉じなくなり、血液の逆流が起こって、足の表在静脈がコブのようにふくらみ変形する(写真①)病気です。足の血液循環が悪くなり、うっ滞を起こすので、足のむくみや痛み、こむら返り(足がつること)、色素沈着や皮膚の潰瘍(写真②)などの症状が出てきます。下肢静脈瘤は良性の病気であり、急に悪化して命の関わるような状態になることはありませんのでご安心ください。
40歳以上の特に女性に多くみられ、年齢とともに増加していきます。長時間の立ち仕事に従事、出産経験(出産経験がある女性の約半数が発症するというデータもあります)、遺伝要素などが原因として挙げられます。肥満や便秘も下肢静脈瘤を悪化させる因子とされます。
2.検査について
既診断は外来で超音波検査を行い診断します。逆流をきたしている静脈血管を同定し、逆流の程度、血管径から重症度を判定し、患者様とご相談し治療方針を決定します。
3.治療について
下肢静脈瘤の治療は表在静脈血のうっ滞を解消することです。
生活指導や弾性ストッキング着用による圧着療法
軽症の下肢静脈瘤で、手術治療に至らない方や手術希望がない方が対象となります。
網目状静脈瘤やクモの巣状静脈瘤、また手術後に遺残した静脈瘤に対して行うことが多い治療法です。
細い針を用いて静脈瘤に血管を固める硬化剤を注入し、弾性包帯で圧迫することで血管をつぶす治療法です。糊のような働きを持つ硬化剤により、血管の内側をくっつけることで血液が流れなくなり、血管が徐々に退化し、最後には組織に吸収され、消失します。治療所要時間は、10~15分程度です。ただし、数回行う必要がある場合もあります。入院の必要は原則的になく、身体への負担が少ない治療法です。
再発率が高く、大きな静脈瘤には有効な治療法ではありません。硬化剤注入部に色素沈着を起こしたり、しこりが残る場合がありますが、いずれも時間の経過ともに改善し消失します。
①血管内塞栓術
2019年12月に我が国で保険適応になった新しい血管内治療で、下肢静脈瘤治療専用に開発された医療用接着剤(グルー)を血管内に注入して血管を閉塞します。局所麻酔で行い、1か所の治療につき約30分程度で完了する治療となります。
Medtronic社のVenaSeal Closure system(写真1)と呼ばれるデバイスを用いて、治療を行います。
アレルギー体質の方は治療に向いていないことがあります。
②血管内焼灼術(高周波やレーザー治療)
①の治療の同様に血管内治療となります。熱によって血管をふさぐ(下の写真は静脈を焼灼しているところです)ため、やけどや神経障害などの影響が起こり得ます。また治療時には焼灼する静脈の周囲にTLA麻酔と呼ばれる麻酔薬を注入する必要がありますので、針を刺す回数は①の治療と比べ多く、麻酔浸潤時に痛みを生じたり、術後に治療した下肢の包帯圧迫(約1か月間)が必要となります。
①、②のいずれの治療法も術後に数回(術翌日、術後1週間、術後1か月、術後3か月)の超音波検査が必要となります。検査結果によっては、血をサラサラにする内服薬服用が必要となるケースもございます。
③ストリッピング手術
逆流を呈している表在静脈を抜去する治療法です。現在下肢静脈瘤の手術治療は①、②が行われることがほとんどですが、血管内治療に適さない場合(瘤が非常に大きい、アレルギー体質、表在静脈が皮膚から非常に近い場所を走行している、静脈の高度蛇行、など)に、行う治療法です。②の治療時に使用するTLA麻酔と呼ばれる局所麻酔薬を使用することで、全身麻酔や下半身麻酔を行わない局所麻酔での治療が可能です。皮膚をメスでおよそ1-2cm程度切開し、ストリッパーと呼ばれる器具を使用して静脈を抜去します。
④高位結紮術
通常、この手術方法のみで治療が完結することはありません。治療対象となる表在静脈と深部静脈の合流部には細かい分枝が存在しますが、その分枝からの逆流量が多い場合や分枝が瘤化している場合に、①、②の手術治療を合わせて施行することがあります。
⑤ stab avulsion(瘤切除法)
美容的な観点からも分枝静脈瘤の膨らみが気になる方は、①~④の手術を行う際に同時に行います。局所麻酔下で皮膚を数ミリ切開し、特殊な器具を使用して分枝静脈瘤を取り出します。傷は非常に小さい傷で行いますので、ほぼ目立たない傷となります。
これらの手術治療法(場合によっては併用)を用いて治療にあたります。
どの治療法がベストな治療法になるかは、検査結果や患者様の希望も汲みながら決定します。
■最後に
下肢静脈瘤は命に関わる病気ではありませんが、足のむくみや重だるさ、こむら返りなど来し、生活のQOLを低下させうる病気です。静脈瘤による血管の膨らみや、うっ滞性皮膚炎による色素沈着は、美容的な観点からも生活の質を落としかねません。また潰瘍形成までに至る重症な下肢静脈瘤は、保存治療では完治せず、感染を引き起こすと入院加療が必要となるケースもあります。
当院では下肢静脈治療に精通した医師(下肢静脈瘤血管内治療実施管理委員会 下肢静脈瘤血管内レーザー焼灼術 指導医、日本静脈学会 弾性ストッキング・圧迫療法コンダクター)が、責任をもって患者様の下肢静脈瘤治療にあたらせて頂きます。
少しでも気になる下肢症状がございましたら、いつでもご気軽にご相談ください。